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東京高等裁判所 昭和36年(く)17号 決定

少年 G(昭一九・四・一五生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

申立人らの抗告理由は記録に綴られてある抗告申立書記載のとおりであつて、その要旨は、

申立人らは少年Gの両親であるが、同少年は昭和三六年二月二一日千葉家庭裁判所松戸支部において恐喝保護事件につき中等少年院送致の保護処分決定を受けた。しかし、今回の事件発生の経過については、実は昨年八月三〇日少年院を退院後一時まともな就職先が安定するまでと思つて、飲食店を営む妹の家に預けたのであつて、これは環境上良くないとためらつたが、妹の希望もあり、本人も真面目に働きに出たいというので短期間の心算で預けたのである。ところがたまたま昨年のクリスマスの夜妹が休日を与えて外出を許したところ、以前から店に出入していた客や境町の年長の若い者に誘惑され、意思薄弱で愚鈍な少年はつい軽卒にも口車に乗せられ金銭的に別段なに不自由ない身分なのに、面白半分に仲間に加つてふらふらと悪事を犯してしまつたのである。私達としても被害者に謝罪して示談解決し、本人も反省して更生を誓つているのである。それで再び少年院に収容されることは僅か十六才の少年としては却つてもつと恐ろしい悪事を見聞して悪心を植えつけられるのではないかと心配されるのであつて、事実先般の少年院退院後は以前よりも悪智恵が一層少年の身についてしまつたように思われてならない。それ故もう一度だけ親許で責任をもつて少年の指導に努めたいからその機会を与えられたい。それで中等少年院送致の原決定を取り消されたく本件抗告に及んだ次第である。というのである。

よつて本案少年保護事件記録及び関係少年調査記録を精査して原決定の当否を検討してみても、右各記録に顕われた少年の性格、環境、生活歴及び非行歴とくに少年は昭和三四年五月四日原裁判所において窃盗保護事件につき初等少年院送致決定を受け、千葉星華学院に収容されたが、成績芳ばしくなく、逃走未遂事件を起して神奈川少年院に移送され翌三五年八月同院を仮退院したところ、間もなく家出上京して在院中知り合つた友達と、横浜、名古屋、岐阜、京都、大阪各市なども放浪し別府市に赴いて窃盗を働き同年一一月大分家庭裁判所において不処分の決定を受けたが、右はとくに保護者の補導を期待してなされた措置であるところ、間もなく本件非行に及んだものであることなどを勘案してみると、たとい申立人らのいうような本件非行の動機などを考慮に入れても、少年の反社会性は強度でその意思薄弱、衝動興奮、粗暴短気、放縦などの性格面からみて、在宅保護による更生を期待することは、とうてい困難であつて再び少年院における矯正教育を受けさせて社会適応性をかん養させる必要あるものと認められ、原決定にはなんら法令の違反、事実の誤認はなく、また著しく不当な処分とみるべき跡はない。であるから申立人らの抗告は理由ないものといわなくてはならない。

よつて少年法第三三条第一項に則つて本件抗告を棄却することとし主文のとおり決定する。

(裁判長判事 尾後貫荘太郎 判事 堀真道 判事 堀義次)

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